映画のワンシーン。伊藤英明演じる先輩、ヨキ(左)の厳しい指導で、勇気(染谷将太)は林業家の自覚を持ち始める=(c)2014「WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜」製作委員会(写真:産経新聞)
無気力な若者が林業インターン制度に応募。しだいに山村生活の魅力に目覚めていく姿を描いた映画『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』が話題を集めている。「現実の山村に映画のヒロイン、長澤まさみさんのような素敵な女性がいたら、もっと希望者が増えるでしょうね」。こう冗談を飛ばす古川大輔さんは東大大学院時代に国の林業インターン制度に応募、奈良県川上村で研修を受け、そのまま林業の道に進んだ一人だ。近年、古川さんと同じように大卒者や都会からの若い林業就職希望者が増えているという。
■東大卒、林業へ
作家、三浦しをんさんの小説『神去なあなあ日常』(徳間書店)を原作に、矢口史靖監督がこの小説が描かれた舞台、三重県美杉町でロケを行い、撮影したのが映画『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』だ。「
《大学入試に落ちた勇気(染谷将太)は、商店街で目にした林業インターン制度の募集チラシに載っていた女性、直紀(長澤)に惹かれて田舎の山林へ。コンビニもない山での暮らしは都会育ちの勇気にとって驚きの連続だった…》
映画の中の勇気の人生は、古川さんの生き方にそのまま重なるようだ。
東京都町田市で育った古川さんは東大農学部へ進学。そのまま大学院へ進むが、将来の目標がイメージできないでいた。そんな頃、林業インターン制度を知ったという。
そして平成12年、大学院1年の時に、国土庁(現国交省)が募集していた「地域づくりインターン」に応募し、奈良県川上村で林業の仕事に携わったことがきっかけで、林業の魅力に開眼した。
■祖先が植えた木
「林業のインターンとは、どんな内容だったのですか?」と聞くと、古川さんは笑いながらこう説明した。「木こりですよ。地元の人と一緒に山の中で生活しながら、毎日毎日、木こりの仕事を教えてもらいました」
映画の中で、勇気は地元の野性味あふれる林業家の先輩、ヨキ(伊藤英明)の家に居候しながら付きっ切りで木こりの仕事を教えてもらう。
切り出した木は市場で競りにかけられるが、1本数十万で次々と売れていく様子を見た勇気が「この山を全部売ったら大金持ちになれますね」と言うと、ヨキたち先輩にこうしかられる。「今日、切った木は祖父たちが植えた木だ。俺たちが植えた木は孫の代になってようやく大きく育つのだ」と。
古川さんは「ネットでは決して知ることのできない魅力が山にはある」と言う。一方で、「日本の林業はビジネスモデルとしては旧態依然としたまま。まだまだ開拓されていない可能性を秘めている」とも。
■“林業女子”も
今、その現場では映画の中の勇気のように、「若い知恵と力が求められています。後継者不足の一方、近年、大学を卒業した若者たちが林業家を目指すケースは増えており、大学生や院生から相談を受けることも多くなっています」と古川さんは語る。
映画の中では、長澤まさみが、山村生活に魅了された直紀を演じているが、実際に林業へ進出する若い女性も増えているという。
古川さんが編集し、今月出版された新刊「森ではたらく! 27人の27の仕事」(学芸出版社)の中でも、そんな“林業女子”や、山の魅力に魅せられた女性たちが紹介されている。
国産材のコーディネーターとして活躍する川畑理子さんは昭和57年、岡山県生まれ。父が三重県の林業家で、10歳まで三重の山林で育った。慶応大学卒業後、会社員を経て、21年、日本の林業再生のために−と起業。家具や建築の内装材などに国産材を使ってもらおうと奔走している。
■「斜陽産業」にあらず
小説『神去なあなあ日常』の著者、三浦さんも同書に登場する。三浦さんの祖父は三重県の林業家だった。祖父がかつて聞かせてくれた話では、山には活気があり、仕事は楽しかったというが、社会科では「斜陽産業」と教えられた。ずっとそのギャップに引っかかっていたという三浦さんは三重の山村で取材し、林業を題材に小説を書く決意を固める。山では生まれて初めてヒルに血を吸われたが、山で働く男は動じることなく、「何や、これぐらい」とライターの火でヒルを撃退。三浦さんは、こんな山の男たちを「危うく惚れそうなほど、生命力・生活力に富んだ人々」だと敬意を表している。
古川さんの事務所のインターン生、野坂恵さんも将来の“林業女子”候補の一人だ。北海道大環境科学院修士2年生だが、今春、1年休学して大阪へやって来た。大学で動物生態学を研究してきたが、「山を元気にするための活動を実地で学びたい」と、現在、古川さんの下で林業修業に励んでいる。(戸津井康之)
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